ものづくり楽校・佐藤 辰也 (中学校技術科教員)

 自宅の押入れの奥を見ると,メンコやビー球,コマなど自分が子どもの頃に勝ち取った戦利品がかなりある。その頃(30年前)の遊びは,自分の持ち物を賭けた真剣勝負だった。それぞれが工夫をこらしたとっておきの武器(メンコやビー球,コマなど)を持ち寄り,未舗装の道路に尖った石で土俵をかけば戦いの始まり。強いものには厳しく,腕の未熟なものにはやさしい,仁義ある戦いだった。これらの武器の仕入れは近所の駄菓子屋と決まっていた。軍資金をポケットの中で握り締め,戦いを思い浮かべながらとっておきの一つを探し出す子ども達の溜まり場が駄菓子屋であり,全ての遊びはここから始まった。
 あの頃と,今の子ども達を取り巻く社会環境は大きく変わっている。昔の子どもは外で遊ぶものと相場は決まっていたが,今はゲームやパソコンなどの室内での遊びが主流で,サッカーや野球などのスポーツさえもバーチャルな世界に取り込まれている。また物が溢れ,直すよりも買ったほうが安く,使い捨てが当たり前となっている。100円ショップに行けば驚くほどの品揃えで,必要なものはたいてい間に合ってしまう。このような状況で,子どもたちの「もの」に対する意識やこだわりは明らかに低くなっている。
 現在,中学校の教員として技術(ものづくりやコンピュータ等)を教えているが,子どもたちが真っ先に突き当たる壁は「何を作るか」である。以前ならば「作りたいもの=必要なもの」がいくらでもあったのだが,必要以上に「もの」に囲まれた今の生活の中では,必要な「もの」を考えることが難しいらしい。このような状況だから,いざ作り始めてもなかなか作業がはかどらない。しかし,授業が進み「ものづくり」に慣れてくると,一転して作業が止まらなくなる。そしてよく見ていると,本来の製作以外にも楽しそうに端切れで小物をつくったり,何かを組み立て始める子どもがでてくる。一人が二人,二人が三人と伝染するように広がり,いつしかお互いの作品を競い合うようになる。わざわざゴミ箱から形のいい端切れを探したり,誰の真似でもないオリジナリティーをだそうと工夫を始め,「もの」に対するこだわりさえ生まれてくる。まるで,駄菓子屋に集まっていたかつての子どもたちのように目が輝いてくる。
 今の子どもたちに必要なものは,活動のきっかけや体験の場所だと思う。子どもが持つ本質的な部分は変わるはずもなく,かつての駄菓子屋のような何かがあれば本来の輝きを取り戻せるはずだ。子どもたちが集まり,ものをつくり,遊びをつくり,夢や人のつながりまでもつくれる場所があれば,そんな思いで「おもしろ実験広場」を主催した。
 まず夢をつくりたかった。町の中で馬を走らせる。しかもその馬に乗ることができたらどんなに楽しいだろう。小学校のグラウンドに現れた馬に子どもたちは驚嘆の声をあげ,初めての乗馬体験に歓喜していた。空を飛べたらどんな気持ちだろう。巨大な手作りソーラーバルーンを宙に浮かべ,つるした紐をつかめば,小さな子どもならば一瞬だがフワリと体を浮かせた。少しだけ夢が現実になった瞬間だ。
 「ものをつくる」楽しさも知ってほしかった。簡単なものでも自分で作って完成したらどんなに嬉しいだろう。『スライムつくろう』『ミンミンゼミを鳴(な)かそう』『ブーメランを飛(と)ばそう』『いろ色(いろ)なコマを回(まわ)そう』『光車(ひかりぐるま)を作(つく)ろう』『ドライアイスでロケット発射』『アルコールでロケット発射』『プチロケットを飛(と)ばそう』など,身の回りにある材料で簡単にできて,完成した後に音や色,感触や動きで楽しめるコーナーを準備した。参加した子どもたちは飽きることもなく,時間の限り「つくり」「遊んで」いた。
 そして何よりも人の輪をつくりたかった。もちろん「おもしろ実験広場」が一人でできるはずはなく,教員仲間をはじめ中高生にも協力してもらい,この試みの参加者は400人を超える大きな輪となった。その後,他町村からも参加しやすいように,新庄駅に隣接した施設「ゆめりあ」と広場「アビエス」でも実施し,駅を利用する多くの人に認識してもらう機会となった。この手づくりの広場は,参加した誰もが楽しめる「楽校」となった。
 「最近の子どもは・・・」という言葉を耳にすることがある。しかし,ものづくりを中心としたこれまでの取り組みからはむしろ,子どもの本質は変わらないことを強く感じる。自分の手を使ってものをつくる。自分の頭をつかって遊びをつくる。自分の言葉をつかって友達をつくる。今の子どもたちに欠けていると言われる多くのことが「おもしろ実験広場」や「ものつくり」に見つけることができる。かつて駄菓子屋から始まったことが,「おもしろ実験広場」や「ものつくり」の「楽校」から始まろうとしている。
 最近になって近所に本物の駄菓子屋が開店した。休みの日は小さな店に子どもたちが入りきれないほどの賑わいをみせている。この目を輝かせた子どもたちの活動の場として,これからも「ものづくり」を生かした楽校づくりに取り組んでいきたいと考えている。


このページのコピー、配信、掲示、送信、変更、翻案等を含む他の利用は固くお断りします。
だがしや楽校 On The Web